ミラサカクジラの短歌箱

歌人・ミラサカクジラの短歌や雑多な日記。

真夏・真昼間・真っ最中

始発ならどこまでだって届きそうシーブリーズもちゃんと塗ったし

 

池袋今は水深5メートルくうきのさかなを交互に吐いて

 

「前世はきっと蝉なの!だって今こんなにハラミが震えてるもん」

 

素揚げしたような抜け殻おいたまま地下か地上かどちらが夢か

 

来年もそうしてきみはあずきバー頬張ってまたこぼすのだろう

 

ゆんゆんとまわる視界とバラエティー真夏・真昼間・真っ最中

 

一昨日も殺人事件があったから市営プールでバタ足をする

 

ゆううつと大きなiPhoneバッテリー忘れたままで夜に飛びこむ

 

掛け布団ふたりで頭からかぶりアダムとイブになりきるあそび

 

クリスマスみたいなネオンのラブホテル 今日はあんまり星が見えない

 

 

 

夏はせっかちだ。毎年いつの間にか部屋に上がり込んで、「よお」なんて言いながら、もう何周もしたファミコンに夢中になっている。魔王だってきっと迷惑だよ。それでいて、「ねえ、まだいる気?」なんて意地悪をいう頃には、ふっと姿を消してしまう。わたしはそんな夏が、たまらなくすきだ。

だから夏が来るのを、いつも待っている。青くてきらきらしたネイルを、そっと指先に塗る。1本、10本、20本。太陽をつつこうとしたら、指先は空に溶けていく。あてもなく駆け出せば、足先から海がながれてくる。からだのなかが青で満たされてゆく。刹那、わたしはふわりと浮かぶ。それが、夏の合図。ゆっくり着地した池袋には、一等賞のセミが高らかに歌っていた。