ミラサカクジラの短歌箱

歌人・ミラサカクジラの短歌や雑多な日記。

地球の屋上(小説)

そのとき、わたしの中で何かが爆発した。まだ白い進路調査表とか、小テストの点、クラスのヒエラルキーで声の大きさがちがうこと、球技大会の練習、家で昨日叱られたこと、窓から夏がはいってきたこと、そういうのが全部全部パァンと音を立てて脳に響いたの…

あおみどりの季節に

若葉たち魔法のようにひらいてくリボンをほどくときは今だよ キャンパスはカンヴァスに似てあちこちに色が咲いては響きあってる 今日ならば空にだって手が届きそう一段飛ばしで階段をゆく ひしめいた生徒の数だけある未来さあ突っ走れ、始業が近い 果実らは…

「落書き」(小説)

「落書き」 ぼくには、当然友達がいなかった。赤いランドセルにはくっきりと靴底のあとがついている。ぼくは余り物なのだ。「冗談」がわからないから、いつも嫌われる。なんで笑わないんだよ、馬鹿にしてんのか、と今日も蹴られてしまった。「共感」ができないから…

世界アレルギー

コンビニで特売の売れ残り品をぜんぶ買いたい捨てないでくれ きっとぼく人間じゃないだから今泣いてる意味さえわからないんだ 機微だとか空気だとかは読めなくて唐突すぎるジョークを言った 折れた傘ゴミになっちゃう世界なら世界アレルギーなんだよずっと …

今日からあなたは沖縄に行く

今日からあなたは沖縄に行く 「荷物重い」「そういうものや」と打ってから何が入っているか気になる 気を付けて行ってらっしゃい旅に行くひとには定型文しか言えない なんとなく美容院の予約をとった今日からあなたは沖縄に行く 海に出て鯨を見るよと特別な…

たべもの・のみもの短歌

あの人がわたしに告白する前に一気飲みしたミントのみどり(モヒート) 「大好物なのに食べられないんです」「それはとっても恋に似ている」(メロン) 心臓を取り出したようだ赤すぎる柘榴はちょっと毒入りの蜜(ザクロ) 無かったら物足りないけど多くても甘すぎ…

短歌研究新人賞 入選作品「遭難」

遭難 「火が光るみたいに産まれた、あの深夜、アタシ涙は出なかったなあ」 土星から母のお腹に不時着し今日もコンビニでレジを打ってる さみしさのかたちは川にとけゆく陽むかしの自分が対岸にいて 鬼ごっこしているうちに身体だけ大人になって捕まえられない …

夏を待つ

洋楽をきいている午後青空の色のネイルを探しています 蝉はまだ鳴かないけれどマルボロのメンソを吸えばもう近い夏 恋人とドンキホーテで買う花火テンプレートが今日は愛しい 「スイカって太陽よりも赤いよね」「きっと太陽に憧れたんだよ」 光化学スモッグ…

ディズニーランド短歌

朝イチの宇宙旅行は急旋回さよなら昨日泣いてたわたし(スペースマウンテン) 宇宙にもわるいひとっているらしい わるいってなぜわるいんだろう(スターツアーズ) 飛びだした音楽たちには色がある(灰色の空ばかり見ていた)(フィルハーマジック) 蜂蜜で満たされ…

他人のまま

変わりたいサナギが蝶になるようにわたしの皮膚をいま食い破る 愛情をずさんに床においたままあなたと夜にとけゆく土曜 気付いたら遠くでまりつきする僕がこっちを見てる強い黒目で 摩天楼きらきらひかる新宿で迷子になった 僕ら子供だ 舌と舌くすぐりあって…

「ウツボカズラは家に飾ろう」

明後日の天気予報は雨だけど今は皐月の風を愛して 軽装のあなたと歩く植物園「ウツボカズラは家に飾ろう」 笑うなら笑っておくれ一昨日の初恋めいたあやまちなんて 歩くことそれは案外難しいリボンがずれて止まった学生 平成のヒットチャートを聴いている汗…

しあわせを形にしたら

朝ごはんを一汁三菜つくってはあなたを優しく起こしてみたい テレビはさ不幸ばかりを流すから消しておこうかこの朝くらい しあわせを形にしたら黄色くてちょっと甘すぎる卵焼きです 白黒を迷わなくていい日々にいてあなたとオセロをたのしんでいる 救えない…

空想のかばん

見え透いた嘘に相槌うちながらテトリスのように積もりゆく澱 夜に見る夢に終わりがあるように輪廻にもいつか終わりが来るの 飲み干したりんごジュースを捨てたなら街へ出ようよ僕と一緒に 愛されて/愛してを日々くりかえしすっかり白目は濁ってしまった 空想…

からっぽの水曜日

からっぽの水曜日には聴いてない音楽流して痛みを愛す 思い出す激流下りのような日々まるで他人のような顔して 泣いている灰色の空 駅前は笑い声だけ反響してて 夢くらい空を飛びたいそれなのに地べたを這いずり汚れた両手 名前すら知らない星に祈ってるなん…

倫理のテスト

注がれたミルクは今日も白すぎて正しいことが分からなくなる LINEには固定の人がいないのに24度目の春を迎える ライターがつかなくなってふと気づく昔の恋人の誕生日 さよならの数ばかり増える日々にいてミックスジュースのような恋愛 渡された倫理のテスト…

カーテンを新調したら

筆箱を新しくするたびにまた新しい日がはじまるようで 曖昧な答えでするりと逃げていく曇りの日にはちょっぴりずるい 新品のお弁当箱なぞってる何を入れよう誰に渡そう きみとなら本屋、百均、映画館 どこだっていい笑って頂戴 カーテンを新調したら部屋のな…

変わらない五本指

くちびるが乾いていってる深夜二時去年のキスを思い出してる 吸いすぎたメビウスはゴミになるばかり灰皿だけが僕の証明 檸檬より歌集をおけよ丸善にきっと爆発するはずだから 溶けていく意識のなかで浮かぶのはデパート屋上の遊具たち マキロンを一口舐める …

あなたを密かに人間にする

鳩たちが地面をつつく震動で春はぴゅんぴゅんと跳ねている 化粧して鏡にすこしわらう時わたしとわたしがキスをしている 飲み込んだ言葉は小骨のように刺す(わたしもうあなたを好きじゃない) カレーには隠し味に林檎を入れてあなたを密かに人間にする 読みか…

珈琲を飲めないわたし

モカチーノ飲みながら待つきみのこと一分一秒鼓動がつのる 地球儀を回しながらも傍らにあるコカ・コーラ子供のしるし 今日からは頑張ろうって線を引く野菜ジュースはやっぱりにがて 珈琲を飲めるあなたが好きだった飲めないわたしもまた好きだった 駄菓子屋…

夜は最高速度

東京の真ん中を泳ぐようにいくすれ違う人ばかり増えてく あの人の指輪のサイズを覚えてる踏み外したのは光のはしご 灰皿に後悔だけがたまってくタイムマシンのないこの星で ともだちに教えてもらったハーブティー夜は最高速度ですぎる 金平糖とかしたような…

ペコちゃんとおしゃべりできる魔法

泣き跡は最高のメイク「ありがとう」って言葉がいちばん輝くメイク コマンドはバランス重視じゃ勝てなくて今日も改札でつっかえました 街角の小さな不二家でペコちゃんとおしゃべりできる魔法はとけた クレヨンは24色じゃ足りなくて未提出のままの夏休み 風見…

川沿いの街

花冷えにくしゃみをしては空を見る気温のジェンガが崩れたようだ 朗々と誰かが詩集をよんでいる川沿いの街に暮らしています 予感だけ抱かせるような春だから知らない道をさやさやと行く 昔みたおとぎ話のヒロインも小指をぶつけたことはあるはず バラバラの…

5日目 かさぶた

入院5日目 退院 紐付きのスニーカーを返してもらう歩いていくのだ夢の端まで いっこにこ忘れ物をチェックしてガラスの向こうは夢幻の景色 かさぶたを剥がしたくなる夜だっていくつも超える準備は出来た 霞んでも脆くなってもこの旗は手放さないよ震えながら…

4日目 地獄の門

入院4日目 赤々と地獄の門が今ひらくナースコールも押せない熱で ふらふらと揺れるカーテン映し出すのは灰色の空と思い出 ゴミ箱に捨てられていくゴミたちに話しかけたくなってきた朝 クーピーで必死に線をつなぐように短歌を書いて書いては消して 花柄のシ…

3日目 初夏の送った伝書鳩

入院3日目 夕方のチャイムが世界を震わせた布団をかぶって防災訓練 レモンケーキは初夏の送った伝書鳩 最高気温を指でかぞえる ねえ先生はやく解剖して下さい「へその緒がまだ切れないんです」 さようなら、海辺から来たようなひと、また会わずとも幸あるよう…

2日目 霊安室のこと

入院2日目 灰色の東京の空で人々はビルにのぼって星座をつくる とぱあずのブレスレットをつけたひと笑うとすこし狐に似てる わたしには東京タワーが一番で二番は通天閣なの、ごめん テレビ越しにぼんやり眺める天丼は遠い世界の異物のようで 地下にある霊安…

1日目 リネンに囲まれて

入院1日目 伸びていく爪はシーツをひっかいてまるで幼児が嫌々(やや)するように 伸びていく影は月明かりに反って指先までも真似をしてくる 清潔な白いリネンに囲まれていきがくるしい、もう、ねえ、ほら、さあ 車椅子するすると往く春風がきっと外では今吹い…

夜を汚す

今週のお題「桜」 前世は桜だったと笑ってたあの子は去年自殺しました はらはらと散っても散っても飽き足らず夜の底を汚して回る 綺麗だねって言われるために咲いてない生きていくために咲いているだけ 遠くから見たら桃源郷みたい桃じゃないけどなみだがで…

赤いゴムまり

わたしは、命はゴムまりによく似ていると思っています。特に赤の。 ぱんぱんに皮膚の内側ふくらんだいのちは赤いゴムまりのよう まるくて、しなやかで、とびはねて。 わたしのまりは、しぼんでしまいました。 一言でいえば、つかれてしまったのです。 ずっと…

「勝手におやりなさい」

大学の入学式で言われた言葉。衝撃的に頭を揺さぶった言葉。 「勝手におやりなさい、 この言葉が命令のように聞こえる事を恐れながらも、 この言葉を送ります」 大学に行けば何かが与えられると思っていた。自分の方向を漠然と指し示すような何かが。 なのに…