ミラサカクジラの短歌箱

歌人・ミラサカクジラの短歌や雑多な日記。

あおみどりの季節に

若葉たち魔法のようにひらいてくリボンをほどくときは今だよ

キャンパスはカンヴァスに似てあちこちに色が咲いては響きあってる

今日ならば空にだって手が届きそう一段飛ばしで階段をゆく

ひしめいた生徒の数だけある未来さあ突っ走れ、始業が近い

果実らはぶつかりあって熟れていく信号ススメのあおみどり色

いつだって教授の話は脱線しわたしを遠くに連れていくんだ

きみのこと見つけたあの日ミツバチがこころを赤くはれさせたんだ

好きだってどっちが先に言ったっけ黒目と黒目に宿る引力

蝉になる夢を見たんだゆっくりと羽化した命はまだやわらかく

合宿で花火をした夜先輩が大人になるねと呟いたこと

大人ってなんなんだろう泣きたい日泣かずに布団にはいる人かな

わたしたちモラトリアムの巣のなかでもう飛べるのに飛ばないでいる

冷蔵庫はいつもほとんど空っぽで寂しい思いをしていませんか

麻雀で賭けないでいて夢だけは次のビールは奢ったげるよ

食えないし小説なんか辞めるってきみは言うけど強がりだよね

誰もみな青の時代を胸のなか飼いならせずに痣になってく

金平糖とげとげしながら寄りそって自分のことを必死にまもる

終電を逃した公園のベンチでへんな星座をつくってわらう

将来はもう真っ白じゃないんだね勝手に色がぬられていって

牛乳のストローかむ癖やめるけどハイヒールはまだ履きたくないよ

バスからは東京タワーが良く見えてこの指とまれと囁いている

いつの日か思い出せなくなるのかな部室でかいた似顔絵のこと

なんとなく灯りをつけられないままでシルエットだけが部屋に満ちてく

きみの背がとおくに見える大人なのまだ子供なの、もうわからない

マッキーで塗りつぶしても書きかけの小説はまだ息をしている

四度目の春風吹いて蕾ではもういられない花として立つ

真っ白な飛行機雲がひかってる誰かのフィニッシュテープのように

ネクタイをまっすぐ結べるきみならば一人でボートを漕いでいけるね

十字路がいくつもあるこの大都市でずっと一緒に歩きたかった

今だけは笑っていよう人の前に社会がくっつく明日の朝まで