3日目 初夏の送った伝書鳩
入院3日目
夕方のチャイムが世界を震わせた布団をかぶって防災訓練
レモンケーキは初夏の送った伝書鳩 最高気温を指でかぞえる
ねえ先生はやく解剖して下さい「へその緒がまだ切れないんです」
さようなら、海辺から来たようなひと、また会わずとも幸あるように
優しさはフォークで憎さはスプーンで食べて今夜もおやすみなさい
折り紙が好きだと思っていたお姉さんは、退院したらサイドテーブルに折り紙を全部置いていった。どれも上手な作品だった。鶴、箱、メダル。でも持って帰るには脆すぎる。きっと病院はそんな場所なのだと思った。日常とは分離した、寝付きの悪い日に見る夢のような。
今日は初めて院内外出でスターバックスに行った。ちょもんとしたレモンケーキを、ひとつ食べた。酸っぱいような甘いような、曖昧な味がした。
いや、それよりも自分の存在が曖昧だ。よく看護師さんに所在確認をされる。「居ますね」とだけ言って去っていく。
居ますね、と言われると途端に不安になる。
居るのか?居るのか、居るのか……。
どうやらわたしは居るらしい。
居てもいいらしい。