短歌研究新人賞 入選作品「遭難」
遭難
「火が光るみたいに産まれた、あの深夜、アタシ涙は出なかったなあ」
土星から母のお腹に不時着し今日もコンビニでレジを打ってる
さみしさのかたちは川にとけゆく陽むかしの自分が対岸にいて
鬼ごっこしているうちに身体だけ大人になって捕まえられない
とりあえずお腹が空いて死ぬ前にインスタントな恋愛をする
いつのまに消えてしまったテディベア、幸せだった?幸せだった?
二重跳び・逆上がりできないままでハタチを過ぎてる運転免許
中学から変わらぬ背丈影だけがエスカレーターにごとり、と落ちて
晴れの日にビニール傘をこじあけて世界に穴をあけゆく遊び
いつだって銀河にもどる子でいたい すこしさみしいメルカトル地図
鮮明に笑って泣いて怒ったり(全部だれかのモノマネなんだ)
秒針を折っても折っても生きているシーラカンスはもういないのに
いつだって四肢に力をこめたままゆりゆりと来る日付変更線
くしゃみして消えてしまった昨晩のあなたの寝言・ニューステロップ
せわしない白鳥のあし(地球から一生飛び立つことは無いのに)
シャカイとかセカイだとかのでかいもの小指の先でつついてやめる
炭酸の抜けたソーダをのんでいるあの時さよならすればよかった
拾うように/捨てるように言葉を追ってひらいた手には貝殻ひとつ
「くらげには脳がないのよ」「僕達とどこが違うの、もう別れよう」
言葉たちがさかなになって泳ぐ湖(うみ) さよならの夜に満潮になる
新宿の万華鏡たちの真ん中で行く宛のない身体があまり
やっぱりね土星人だよわたしはさ 結婚式のハガキを捨てる
からっぽの明日を愛す 文字の海で余白を静かに見つめるように
街灯は夢を知らずにただゆれて瞬きしたら取りかえられた
UFOをつかまえたいの かなしみは消えないですかと英語できくの
(見つけてね、見つけないでね)折り鶴のなかの言葉は忘れてしまった
死にたくない、コーラはのんだらなくなった 詩集も焼いたらいなくなるのか
命日と誕生日が幾千もある ガーベラを今朝の窓辺にかざる
デネブから手紙が届く「わたしたちきっとどこにも行けないでしょう」
地の果てに点字ブロックのびてゆくヘンゼルはまだ迷子のままで