ミラサカクジラの短歌箱

歌人・ミラサカクジラの短歌や雑多な日記。

近藤芳美賞投稿作 「縷縷」

深海魚ひとみのなかに映る泡むかし誰かが零した言葉

 

線路には終点がある 世界を睨む けれども冬のハーブティーはすき

 

赤風船おさない手のひらすりぬけて大気圏まで母の膝まで

 

紙虫を悪意ある潰し方をする遠くで車のブレーキの音

 

ユーレイになれたらみんなで鬼ごっこしよう、宇宙の中が陣地ね

 

流行歌があしたを謳うタクシーで首のみじかいきりんを思う

 

雨の中テールランプのゆりかごで乳児のように眠りに落ちる

 

そうだった、ボクはむかしはクマだった、マリモ、モズ、ズッキーニ、ニンゲンだった

 

どうどうと記憶の川の源流はミトコンドリアのそのまた向こう

 

幾千の乳房の上にねころんで花を食んでる乳幼児たち

 

月の裏、廃墟の小部屋、さようなら 足跡ばかり残ってしまう

 

ひとひらの蝶がみている夢ならばカシオペア座もきっと夢だね

 

半端な月そんな名前はないけれど半端な月を爪でなぞって

 

遠くまで歩いたけれどメビウスは縷縷とのぼって見えなくなった

 

まばたきをつれて季節はうつりゆく僕はビードロを鳴らし続ける