ミラサカクジラの短歌箱

歌人・ミラサカクジラの短歌や雑多な日記。

短歌

お題「卒業」

今週のお題「卒業」 未来とかはばたけだとか綺麗事ケッペキすぎてさわりたくない 渡される卒業証書は軽すぎて切符とたいして変わらないじゃん だいきらいでしたあなたがにくかったそんな言葉を謝辞が搔き消す 泣きながら集合写真を撮っているどうぶつたちよ…

亡霊動物園

熱帯夜、そう呟いて気が付いた ぼくは熱帯なんかしらない 深夜二時亡霊動物園ひらくエンドロールのそのまた後ろ ウサギ小屋にはやわらかな毛皮落ちていて明日にはきっとコートに変わる 虎たちは虎であることやめていて優しい舌で互いをなめる モノクロの世界…

漫画たち

きみの顔落書きして初めて気づくわたしはきみのほくろを知らない ねえ少女漫画のヒロイン、おぼえてる?「カエルの卵がいちばん好きよ」 ねえ少年漫画のヒーロー、わすれてる?あの日に流されちゃった浮き輪を 起承転結の転ばかり起こる夜 ホットミルクは裏切…

近藤芳美賞投稿作 「縷縷」

深海魚ひとみのなかに映る泡むかし誰かが零した言葉 線路には終点がある 世界を睨む けれども冬のハーブティーはすき 赤風船おさない手のひらすりぬけて大気圏まで母の膝まで 紙虫を悪意ある潰し方をする遠くで車のブレーキの音 ユーレイになれたらみんなで…

真冬、真夜中、真っ白な

街々の導火線ならここにある瞬きをする駅前広場 さよならと初めましてを繰り返す回転木馬は夜を知らない 冷めきったココアに満ちるかなしみをひと匙掬ってきみに飲ませる 吐く息が白いねなんて笑うけど身体のなかは赤でいっぱい 長電話の果てにはなんにもな…

パラレル

猫達がいっせいに鳴く満月はそれをいつでも許してあげる 紫の空にはさやさや流れ星ねがいは一つも叶わないのに 公園のベンチは語る「人間はペンキが剥げたら死ぬなんて!」 捨てられたチェリーコーラの吸い殻が蜘蛛に代わって歩き始める ドブ川に無数の金魚が…

レムの森

青空は幾億も飛ぶモルフォチョウぞんぞん揺れる、太陽はない モノクロの花ばかり咲く庭にいて自分の瞳の色を忘れた 文字盤はあちらこちらを指していてモルモットたち行進をする ヤドカリのヤドの中には最新の薄型テレビが光を放つ 水たまり映る景色の向こう…

マリオちゃん

泥水に指をそろえて飛びこんだ37度の恋愛だった ピーチよりマリオになりたい暗い城から君を見つけてあげる 青空が青いと思う瞬間にぱちんと鳴った世界の合図 八月を繰り返したい観覧車回れよ回れふたりはひとつ 山手線ねむった君をじっと見るこのまま一生ま…

短歌の水深 宇宙からマカロンまで

わたしは昔から言葉がすきだった。ひとりで辞書を読むのがすきで、小学一年生から小説を書いていた。ぼんやりと、自分は小説家をめざすのだろうと思っていた。高校生の時、授業で短歌に出会うまでは。 はじめて短歌を宿題に出されて、わたしは悩んだ。たった…

平成アンカー

平成はたのしかったと言いたくてアンカーだから急かされている インスタに虹色ばかり載せるけど鈍色の空をたまに撮ります 特売のハンドスピナーくるくると素知らぬ顔で時間をまわす 充電が切れるとうそをついたから世界でひとり珈琲をのむ ハッシュタグつけ…

たべもの短歌

挨拶のかわりに渡したきびだんご 彼女の旦那は柴犬の顔 あいつにはなれないソーダを頭からかぶってもまだ真夏日のまま 「秘密だよ、林檎飴を処女が食べるとその晩夢でポルカをおどる」 フエラムネすうすうとなる先月に喧嘩した子にLINEを送る 夜祭りで一等賞…

晩夏

夜祭でヨーヨーをつるしぼむのはすこしくすんだ子供の気持ち 「金魚って友達とかはいるのかな」金魚すくいをきみはやらない 毒色のクリームソーダのみほした地球のみどりがすこし減ったね 火の花はいつでも咲くよ藍色のそらにかざした手をパーにする みぞれ…

終末、新宿、あそびにいこう

予言では今夜せかいが終わるはず数Ⅱのテストさぼっちゃおっか 終末に欠伸をしてるわたしたちそのチョコレートいっこちょうだい こんな日も山手線は満員でせわしなく往くまぐろのようだ 新宿はカップヌードル・ファンタジア 三分後にはぜんぶ嘘だよ カラオケ…

短歌研究新人賞 佳作 「まりあの子」

からっぽの牛乳パックをのぞきこむ殺菌された愛が臭った へその緒が繋がったまま息をするモラトリアムはホルマリン漬け 浴槽に手足をまげて頭までつかって毎晩胎児にもどる 左手に寄生したヒルかなしみはぬるま湯だからおぼれてしまう 鏡には成人女性の裸あ…

虹と星

あの人がきっと捨てないハローキティ食中毒で倒れてしまえ 別れる気などないのに電話越しじゃきじゃきといま髪を切ってる メンズ用シャンプーでよく洗ってもぬるい曲線、イブの末裔 背の高いおまえはきっとあいされてだからいつでも猫背なんだろ わたしぼく…

真夏・真昼間・真っ最中

始発ならどこまでだって届きそうシーブリーズもちゃんと塗ったし 池袋今は水深5メートルくうきのさかなを交互に吐いて 「前世はきっと蝉なの!だって今こんなにハラミが震えてるもん」 素揚げしたような抜け殻おいたまま地下か地上かどちらが夢か 来年もそうし…